結局来た。
「死ぬ...。死ぬぅぅぅッ」
「折角なんだ。楽しめ」
「何を楽しめって言うんだよ...」
顔を真っ赤にして俯く克哉。
昨日変な女子の制服のようなブレザーを着させられて、
今日はそれでレッツショッピング。
「お前の服を買いに来てやったんだ」
「こんなのないよ...」
恥を忍んで電車に乗って、克哉の行きつけの服屋に行く。
「(しかも混んでる...なんでだよ...)」
っていうか<俺>どこだよ、と辺りを見回す。
「(遠ッ!!)」
自分が人ごみに流されたのか、<俺>が流されたのか。
<俺>が流されるはずなんてないよなと
少しばかり流されている様子を思い浮かべて思う。
「(...っ!?)」
下半身に、違和感を覚えた。
「(...あは...は、ま、まさか...)」
鞄が当たっているのかもしれない。
この満員電車だもんなと思い過ごす事にした。
大体男である自分が――。
っていうか今世間的に女に間違われてる!?
その思考に至った時には、完全に手が尻を弄りまわしていた。
「(ちょ、男だってバレる...!!)」
スカートの中に、男の手が入ってきたとき、男は気付いた。
何故ならスカートの中にはいていたのはトランクスだったからだ。
「(...ううう...)」
恥ずかしい。顔から火が出る。
しかし、男の手は止まらなかった。
「(ぇ...な、何で...!?)」
克哉はびくり、と身体を震わせた。
俯いて唇を噛み締める。
「(どうしよっ...)」
手が、腰をなぞり、前に回される。
「(嫌だっ...!!)」
「おい。」
聞きなれた声がした。
気付くと克哉がすぐ傍にいて、男の手首を掴んでいた。
*****
<俺>と言おうとして、克哉、と呟いた。
「失敗したな...」
「...ん?」
「いや...。大丈夫だったか?」
女装中の克哉の頭が真っ白になった。
大丈夫だったか?
まさか彼が自分の心配を?
よほど酷い顔をしたのだろう。
眼鏡をかけた克哉が怪訝そうにこちらを眺める。
「あ、うん。大丈夫」
手渡された缶コーヒーを飲みながら、
駅のベンチに腰をかける。
「(っていうかそもそも誰の所為だ...)」
ハタと思って、そう自分に言い聞かせる。
「早く、さ、服...買いに行こうよ...」
おずおずと言う。
「そうだな」
あっさりと呑まれた要求に、克哉はぽかんとした。
「早く飲め。このグズ」
「(ひぃぃぃッ!!)」
でも助けてくれたのは事実だし、
もしかしたら少しは優しいのかも、と思い始める克哉だった。
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