今日も朝から漫才みたいなことをし続けてゲンナリ。
先日は本多とのAV騒動があったが、
あれから何かと眼鏡をかけた克哉は克哉にちょっかいを出してからかってくる。
お前はいくつだ。
そんなツッコミは胸の奥深くに埋葬して、
克哉は今日も家政婦のように扱われる。
「あぁ...オレ何やってるんだホント」
箒を片手に掃除ばかりしている自分。
暇で暇で仕方なく、掃除ばかりで、部屋には既に塵一つ無い。
潔癖症の人を今ここで招いても全く恐れるものは無いというレベルの部屋。
「暇だ...」
克哉はベッドに腰をかける。
「何か無いかなー」
と、その時。
「克哉さぁぁん!! いないんすか!?」
太一の声がして、バンバンとドアが叩かれる。
「太一?」
思わず開けると、唐突に太一に飛びつかれた。
「太一!?」
「克哉さんっ、よかった!! コレ、コレー!!」
何となく既に見たものがあると思えば、
犬耳キタ。
「克哉さんのは治ったんだ...」
「うん」
「何で治ったんですか!?」
「...よく分かんない...。1日くらいで治るんじゃないのかな」
ま、まさか自分の「何かないかな」発言によって、
太一の耳に犬耳が生えてしまったのだろうか。
その確率はかなり高い。
克哉の目が大きく泳ぐ。
「どうしよう、克哉さん!! このままじゃ外歩けないっす」
「(とは言われても...いつ<俺>が帰ってくるか分かんないし...。
前回も太一を家に入れて怒られたっけ)」
「お願い、今日泊めて!! ね!? 駄目!?」
「(ちょ、ちょ、どうするオレ!?)」
LIFE CARD状態。
とは言っても自分の所為で生えてしまったのだ。きっと。
無視するわけにはいかず、家に上げる。
泊めるかどうかは別として、まだ多分克哉が会社から帰ってくるのには時間があるからだ。
お茶を淹れて、とにかくどうするか考える。
「にしても綺麗っすよねー、克哉さんの部屋!!」
「あ...うん」
話上の空に、とにかくひたすら考える。
「(あー...絶対怒られるよー。<俺>太一の事嫌いだし...)」
「あれ!? 克哉さん克哉さん、何で歯ブラシ二つあるの?」
「(げっ)」
眼鏡の克哉用とノーマルの克哉用の歯ブラシだ。
「あ、片方は捨てようと思ってるんだけど忘れてた」
適当な事を言って誤魔化す。
「ふーん。俺てっきり女の人かなにかと同居してんのかと思いましたぁ」
本多と同じことを言うな!!
最近本当に心の中でツッコむことが多くなった気がする。
克哉は溜息をついて、これ以上危険なものが見つからないように色々思い出す。
「(この前のAVは...)」
「克哉さーん!! この『バレーの試合』っていうビデオ何っすか」
「うわあああああああああああッ!!」
既に発見済み。
慌ててひったくる。
「こ、これはオレのじゃないんだっ、友達ので、この前忘れて行っちゃって」
どんどん嘘に無理が生じてくる。
「克哉さーん、ってかこの女物の制服は何何!?」
「いやっ、その、それはいもっ、妹が遊びに来たときの」
遊びに来た時の何だ。
克哉の寿命がどんどん縮む。
多分既に500年くらい縮んでいる気がする。
前回の女装して外を歩き回ったことといい、
本多が来た時といい、
今といい、
そもそも毎日の自分との生活といい。
「た、太一。そんなに、ね、あちこち見ないでくれないかな...」
「えーっ、だって面白いじゃないっすか」
「いや、そういう問題じゃなくて」
ぱたぱたと左右に揺られていた尻尾が急にシュンとなる。
「克哉さん、俺の事嫌い?」
「そんなことないけど」
「じゃあ好き?」
「好き、かな」
がばちょっ!!
「うわっ!?」
「好きなんでしょー!! 嬉しいなー!!」
はったおされている。
首元に顔をうずめてくる太一。
「(まっ、待て!! 何で!? 何で!! ってか首は...!!)」
昨晩眼鏡の自分に付けられた痕があるはずっ...!!
太一の肩を掴み、体勢を戻す。
「ちょ、克哉さん。今首に」
「虫だよ」
即答。
「やっぱり克哉さん女の人いるでしょ!!」
「いないって(本当に)」
「いいなぁ」
「いないから(本当に)」
「女の人が羨ましいよ」
「だからいないってば...え?」
それはどういう意味デスカと脳内パニックを起こしたところで。
電話が鳴った。
「ちょ、...げっ!!」
自分からだった。
出ないと殺される気がする。
殺されなかったとしても夜が怖い。ものすごくシュールに。
「も、もしも、し」
『お前のことなんぞお見通しだ。客を入れるなとあれほど』
「...だって犬の耳が」
「かっつやさーん!! 誰? 誰!?」
『...(怒りのバロメーター90%)』
「あ、いや、会社の人、会社の」
かなりの音量で聞えてくる太一の声からして、
きっと克哉と太一はものすごく至近距離にいることが伺える。
ぶち。
「えっ!? お、おい、ちょっと!!」
切れた。
「(うわっ、絶対怒った...!! どうすればいいんだよ...)」
ストレス...。
何とか無理矢理忘れようと太一と普通の会話をする。
ロイドの話や大学の話、タレントの話などなど。
少しずつ、何とか気分を回復させる事に成功した。
のに。
ばたん。
「え?」
「おい、太一」
「...はっ!? 何で克哉さんが二人!?」
眼鏡をかけた克哉乱入。
ノーマル克哉は真っ青だ。
「驚くことないだろ? お前の犬耳の方がよっぽど驚くに値する」
「いや、ちょっと、説明してっ!! 克哉さん!!」
「えっと...ぶ、分裂??」
「そりゃ見て分かりますよ、何で!?」
大パニックだ。
「オレにもわかんないって」
「ああああああッ、だから克哉さんの首に付いてたのってこっちの克哉さんがつけたんだ!!」
「その通りだ」
「その通りだって、ちょっと<俺>否定しろよ!!
大体仕事はどうしたんだよ!! しかも『お前のことは全てお見通しだ』とか!?」
「お前がほいほい誰でも入れるから盗撮カメラをつけた。
今は営業中だ」
「営業しろよ!! ってか監視カメラじゃなくて盗撮!?」
余計性質悪いよ、と克哉は怒る。
「で、偽克哉さん」
「偽?」
「だってそうでしょー」
「...躾けた方がよさそうだな、この駄犬。俺のどこが偽物だ?」
「克哉さんはそんな傲慢な人じゃないっすもん」
克哉対克哉の口論が、今度は克哉対太一に変わって行く。
「太一、<俺>に変なこと言わない方がいいよ」
「だって克哉さんが可哀想じゃない!! 監禁っぽいことされてさ」
「...で、でも」
確かに我侭で傲慢で自己中で非常識なところもあるけど
でも洋服だってわざわざ選んで買ってくれたし、
痴漢されたときも助けてくれたし、
熱の時は看病してくれたし、
そもそも自分のために働いてくれている。
「悪いところだけじゃないから」
カメラも、克哉を心配しての行動だったのだろう。
「ね、<俺>」
「勘違いするな」
「...」
「自惚れるのもいい加減にしろ。ナルシスト」
克哉の中で何かが切れた。
「克哉さんて、意外とキレると怖いんすね」
「...」
結局ベランダに締め出された眼鏡をかけた克哉と太一は、
そのまましばらくの間放置されたのだった。
「っていうか俺なんで締め出されたんすか?」
「知らん。キレるとのべつ幕無しに何でもかんでも当たるんだろ」
「俺の耳いつになったら戻るんだろ...」
静かに太陽が沈んでいく。
「...あ、そういえば偽克哉さんて、営業中だったんじゃないんですか」
「...」
夜は長かった。
二人は自重という言葉を知った。
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終わっとけ☆
すんません。
太一が無駄に暴走しました。
いつもヘタレっ子が苛められててかわいそうだと思ったので
たまには反撃させてみました。
頑張れ、ヘタレっ子!!
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