知らない建物のはずなのに、
何があるのかも分からないのに、
克哉はこの中に何かあるような気がして、扉を開けた。
「おや、いらっしゃいませ」
そこには長い金髪を揺らせたMr.Rが立っていた。
「おや、佐伯さん」
「...」
「そろそろだと思いました」
「...え?」
Mr.Rがさらりと身を退けると、そこには、見慣れた男が立っていた。
「<俺>!!」
俯いた彼は、克哉の方を見ようとしなかった。
「帰ってきてよっ、<俺>!! ごめん、オレが我侭言ったから」
「我侭?」
眼鏡の自分に抱きついて、帰ってきてと懇願し、謝罪する克哉に、
克哉は眉を顰めた。
「お前は俺が迷惑なんだろ」
全く彼らしくない言葉に、克哉は目を丸くして驚く。
「お前は俺が嫌いなんだろ」
「そんな、何でそう思うんだよ」
「お前のことは俺が一番よく知ってる...」
それは普段の彼からは想像もできないほど弱弱しい声で、
震えていた。
「だからいいんだ。...悪かった」
「...<俺>...」
「もう全て忘れろ」
重たくそう言った彼の言葉に、克哉は静かに呟いた。
「...嫌だ」
「...何?」
「嫌だっ、忘れるなんて!!」
克哉は克哉のスーツを強く握った。
離したくないと、強く。
「戻ってきてくれ...、また、一緒に暮らそ...?」
涙で濡れた頬。
克哉はそんな彼に驚いた。
ずっと<克哉>は一人なのだ。
克哉が眼鏡をかけて初めて彼は光を見ることができて、
あとはずっと、闇の中。
「そりゃ、怖い、ときもあるけど...でも...
<俺>がいないと寂しい...か、も」
言葉を発して、その恥ずかしさに気付いたのか、最終的に「かも」を添えた。
「かも? あんなにえんえん泣いていたくせにか?」
いつものように眉間に皺をよせた克哉に
克哉は思わず笑みを零す。
「...戻った」
眼鏡の克哉は、そんな克哉に呆れた溜息を漏らす。
でもそれはどことなく嬉しそうだった。
「帰ろう、オレたちの家に」
家に帰ると、唐突に眼鏡の克哉に抱きしめられた。
「お、<俺>!?」
「さっきのは告白と取っていいのか?」
「..え!?」
「俺にはお前が俺を好きだと言っているように聞えたが」
耳元で囁かれてゾクリとする。
それだけで腰の奥が熱を持ったのが分かる。
「そ、それは..、」
自分でもよく分からなくて、考えていると、
唐突に唇に唇が押し当てられた。
「っん、...ふ」
拒まなかった。
それでいいと思えたから。
ナルシスト説は否定するが、それでもやはり、
「(オレは<俺>が好きなのかもしれない...)」
克哉は目を閉じて、克哉の舌に絡めた。
「ぁ...」
唇がゆっくりと離れて、口内に外気が入り込む。
二人の間を銀の糸が厭らしく伝った。
「克哉」
眼鏡をかけた自分の低い色っぽい声に克哉はドキリとする。
「...いいか?」
「...う、ん」
ゆっくりとベッドに倒れこみ、シャツのボタンを解かれ、
首筋にキスを落とされる。
「...っ」
キスが段々胸に降りてきて、
薄い胸板をなぞって突起に触れた。
「ぁっ...」
甘い声が漏れる。
普段の彼からは考えられないくらい優しい愛撫は、
どことなく切なくて、愛おしかった。
「<克哉>ぁっ...、んっ、はぁッ」
克哉の手が、下着の中に侵入する。
臨戦状態のソコを撫で、後孔に指を埋める。
「ぁう、んはぁ...!!」
それでも指だけでは克哉には物足りなくて
「...も、もっとっ..ぁ...<俺>が欲しっ...ぃ」
繋がりたい。
もっと近くにいたい。
「<克哉>、<克哉>ぁ...!!」
「俺を感じろっ...!!」
ぐぶ、と挿れられた大きな克哉のソレ。
「あああッ!! ああ!!」
頭に押し寄せる快感の波に、辛うじて意識を保ちながら、
ゆっくりと目を開いて克哉を見る。
「き、もち、いい...」
「そうか、...もっとよくしてやるっ」
突き上げられて克哉の髪が大きく揺れる。
「ぁああああッ、ああん!! ソコっ、ああ!」
「ここ、だなっ、...く」
シーツを握り締める彼の手を解き、首に回させる。
「はぁっ、ああっ」
激しい抜き差しにもう何も考えられなかった。
「すきっ...<克哉>っ..好きっ...!! あぁっ...イっ、イくぅぅッ!!」
「.....っく...」
ぐったりした克哉は、そのまま眠ってしまったようだ。
静かにその身体に毛布をかけてやる。
「...<俺>..」
ふと克哉の口から漏れた言葉に、克哉は吃驚する。
寝言のようだ。
「...ふ」
笑って、彼は眠る克哉の額に優しく口付けをした。
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