「佐伯くんて、彼女いるの?」
「え?」

会社でふと女性社員らに言われた言葉。
「だっていつも帰るの早いし...」
仕事はいつも基本的に早めに終わらせて、
先に家に帰って疲れて帰ってくる御堂のために夕食を準備しているからだ。

「彼女はいないよ」
「彼女は?」
じゃあ他に何がいるのだ、とでも言うような目で見られて、
咄嗟に
「好きな人はいるんだ」
と濁す。

「えええっ、残念」
「残念? 何が」
「いやいや、こっちのハナシよ」

そんな話を偶然にも耳にしてしまった御堂の嫉妬は燃え上がった。


あの女たち、克哉狙いか!!


自分の誕生日の際に克哉にもおそろいをあげたペアリングを自慢するように、
御堂は左手をネクタイの所に添えながら、
克哉と女性社員たちに声をかけた。

「あ、御堂部長」
やはり一番最初に御堂の姿を見つけたのは克哉で、
それだけで御堂の心は躍る。
「どうしたんですか?」
「佐伯くん、この書類を」
「あ、はい。わかりました」
ぱっとその書類を受け取ったとき、
女性社員がハッとした。
「(ふんっ)」
御堂は心の中で勝利の鼻を鳴らす(?)。


問題だったのはその後だ。
「えーっ、何で二人が同じ指輪つけてんの!?」
「偶然よ、偶然!! だって佐伯くん、私が昼食に誘ったら真っ赤になって断ったんだもん」
「何抜け駆けしてるのよ!! ってか断られたんじゃないの」
その後克哉は御堂と二人きりの昼食をとっている。
真っ赤になったのは御堂と二人きりでの昼食を目前に控えていることが原因だ。
そこまで女性社員三人は考えなかった。
「指輪が同じなのは偶然なの!? 偶然...、でも何で指輪!? 二人ともフリーなはずなのに」
これは私達だけの問題ではないわ、
と携帯電話を取り出すと、なにやらメールを打ち出した。




職務後、女性社員7人は居酒屋に集まった。
「う、嘘ー!! 偶然よ、偶然!! 決まってるわ、偶然!!」
内訳は克哉狙い3人と、御堂狙い4人だ。
「なんとしても調査するのみよ!! 女の人脈を舐めんじゃないわよー!!」
酒の入った彼女らは、物凄い勢いだ。
「絶対落とせないんだからっ、負け犬だなんて言わせないんだから!!」
特に御堂狙いの20代後半〜30の女性は怖い。
人生の分かれ道というやつに立たされて、崖っぷちなのだ。



*そんな頃*


「あ、お帰りなさい」
「ああ」
ただいまのキスをかましてラブラブモード200%の二人。
御堂も女性社員に克哉が自分のものだとアピールできてご満悦なようだ。
克哉の方は全く気付いていないが。
そして御堂自身も、女の真の底力というものに気付いていないのだ。

恋する乙女の底力!!(一部にしか通じないネタ)





***


次の日。

「佐伯くん!!」
「え? あ、浅倉さん。おはようございます」
「明日土曜日だし、今晩カラオケ行かない!?」
「えっと...」
克哉の脳内、あばばあわわヽ(;´Д`ヽ)(ノ;´Д`)ノ 状態。
週末は勿論の事いつも行為で始まり行為で終わるようなものだからだ。
「えっと、ちょっと考えておきます」
「うん」
御堂の執務室に調度用事もあったので、
ついでに聞いてみる事にした。

「カラオケ?」
「会計の浅倉さんたちに誘われて」
昨日克哉は自分のものだとアピールしたのに、
と御堂の怒りのメーターは上昇する一方だ。
リストラしてやりたいほどの憤りだが、
仕事と私生活は混合してはならない。
御堂は悩んだ。
「オレは...御堂さんと一緒に居た方が楽しいです」
人付き合いってのは大切だけど、と付け加える。
「オレ、断ってきます」
部屋を出ようとしたところで、
女性社員が入ってきた。
「御堂部長、今晩カラオケ行きませんか?」
「米山さんっ、それってオレが行くカラオケ?」
「うん、えっとメンバーは浅倉たちと、私達と、御堂部長と佐伯君を予定してる」
「女性ばっかりなんですね(苦笑)」
苦笑いをしつつも、
御堂にさり気無く目で合図を送って
行くか否かを決める。
御堂が行かなければ七人の女集のなかに男が一人という、
嬉しいというより精神的に苦しい状況になるのは目に見えているので、
御堂との週末以前の問題となってくる。
そういえば御堂とカラオケなんて行った事はなく、
克哉としては是非彼の歌声を聞きたい。

そんな事が顔に出ていたのだろうか。
御堂がその誘いを受けたので、
克哉も同席させてもらうことになった。




続く...







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