そんな関係が続いて、一週間になる。
眼鏡の自分にも言い出せないまま、Mr.Rに抱かれる日々。

体力的にも、精神的にも、もう限界だった。

眼鏡の自分に嘘をついて、
仮面を被って、
眼鏡の自分だけではなく、自分をも騙している。


「何を考えていらっしゃるのですか?」
「ぅ...」
「いけませんねぇ」
ぐ、と突き上げられて克哉は激しく喘いだ。

「ほら、もっと啼いてください」
丁寧な言葉は、その中に強制の意味を含んでいた。

「お仕置き、ですから」
「なっ...、ぃ...ゃ...」
「嫌ですか? 説得力に欠けますよ」
「ご...、ごめん、...ご、め...ん、」
手首を拘束されて、首輪をつけられ、目隠しをされている克哉は、
抵抗もできないままに精液に塗れながら啼き続ける。

更にMr.Rのペニスに奉仕することを強制され、
アナルにバイブを突っ込んだまま跪いて咥える。

口腔内に精液を放たれ、無理矢理に飲まされ、
最終的に克哉もイかされてMr.Rは立ち去る。

「っ...、<克哉>っ...た、すけ...て...」
意識を失い、
寝言のように克哉はベッドの上で涙を流す。


「た...す...け、て...」

その言葉だけが、空気のように部屋に溢れた。




完全に無音と化した部屋に、
克哉は帰ってきて、愕然とした。

入ってきた瞬間に部屋から溢れ出た生暖かい異様な空気を掻き分けて部屋に入ると、
ベッドの上でシャツを羽織っただけの状態で倒れている克哉を見つけた。
「っ...!!」
首筋に残る紅い首輪の痕、
頬についた乾燥した精液の痕、
そして紅く腫れた目、
涙の痕。

抱き上げると、克哉は意識を若干取り戻した。
「...ぉ...<俺>...?」
それが現実であると気付いた時、
克哉の顔から血の気が一気に引き、
うめき声を漏らした。

「ごめんっ...、ごめん、ごめん、ごめんっ」
涙が溢れ出して、再び克哉の頬を濡らした。

そんな克哉を克哉はぎゅっと抱きしめた。
「...っ」
「すまない...、<オレ>...」
「...ぅ」
強く強く。


気付いてやれなくて、ごめん。



「オレが、会社に?」
「ああ」
「でも」
「送り迎えは本多に護衛してもらえばいい。
 悪質なストーカーに追われているとでも言えばすっ飛んでくるだろう」
「そんな、人を道具みたいに」
「それが一番安全だろう」

あの男はどこから現れるか分からないと、
明日会社に行っても本多から離れるなと指示をする。
「しかも本多なら奴に会ったこともあるからな」

「で、<俺>はどうするんだ?」
「俺は明日ここで奴にハナシをつける」
「そ、そんな危ないよ!! 絶対」
「大丈夫だ。明日奴が来るとしたら絶対に俺が復讐しようとしていることを知ってやってくる」
「...でも...、オレたちが一緒にいられるのはあの人のお陰なんだよ...?」
「そんなんだから舐められるんだ」
「...」
大きく溜息をついて前髪を掻き上げる彼に、
克哉は思わず肩をすくめた。

「いいか、俺は俺でお前はお前だ。今更同一人物とでも言う気かお前は。
 そう思っているなら...危険だぞお前ホント
「...」
「いいな。明日の予定や仕事の進行状況はメモに書いておく」
「...うん」
心配極まりなかったが、
克哉の言うとおり、克哉は翌日本多の迎えによって出勤した。


「昨晩突然の電話だもんなぁ。ストーカー? 物騒になったもんだな。
 女のストーカーってことか?」
「い、いや」
「男なのか!?」
「...暗くてみえなかった」
女であることをつい否定してしまって適当に誤魔化す。
「大丈夫か? 何もされてないか? 俺がいたらフルボッコだったんだがな」
「..だ、大丈夫、ありがとう」
「...」
急に黙った本多。
「ど、どうした?」
「お前から"ありがとう"なんて聞くのいつぶりだ??」
「...そ、そうか、な」
「今日の克哉、なんだか穏やかだし」
いつもの刺々しい感じとは違うーと言われて、
思わず<俺>を思い出し笑いそうになるのを堪えた。



「久しぶりだな」
「そうですね」
相変わらずの仮面のような笑顔は本当に不気味だ。
「<オレ>が世話になったな」
「とんでもない。愉しかったですよ」
無意識なのかそれとも意識的なのか、
無意識ならば尚更性質が悪い。
「もう<オレ>を構うのは止めてもらえないか」
「残念ですねえ。彼の泣き叫ぶ顔はとても素敵でしたのに」
「...」
「おや、そんなに眉間に皺を寄せて...。
 本当に可愛らしかったんですよ。ずっと貴方の名前を呟いて、
 ずっと謝っていらっしゃった。健気で本当に...」
「黙れ。いいから<オレ>に構うな」
キツイ口調で言いあげたが、
彼はまったくそれに動じずに嗤って返した。

「もし、嫌だ、と言ったら?」
「どうしたら離れる?」
「そうですねえ、貴方がお相手してくださいますか?
 私と、この子達の」

「この、子達...?」
眉を顰めた克哉の足を、何かが捉えた。







戻る