カラオケ自体行くのは久しぶりだ。
最後に行ったのは確か本多と二人で、
大きな企業との契約が決まったときだった気がする。

「佐伯」
「あ、はい」
「いや、どうした。私の顔になにかついているか?」
「いえっ...、その、御堂さんとカラオケに行くのは初めてだな、と...」
幸せそうに顔を綻ばせる彼に、思わず御堂も顔を赤らめる。
「さ、最近は休む間もなかったからな。気分転換になるだろう」

「でも、御堂さんてカラオケ行くんですね!! オレはてっきり断ると...」
実際問題として御堂は初のカラオケだったりする。
今回行くのはカラオケに誘われたときの克哉が行きたそうな顔をしていたからで、
そうでなければ本来断っていた。
自分が歌うことなど全く考えずに、ただ克哉の歌が聞きたかったというのも一理ある。
普段聴くのはクラシック。
克哉は御堂の歌を聞きたいと思っているが、
それは叶いそうも無いかもしれない。


**


女性社員たちは普段どおりに振舞っていた。
心中は勿論ハイテンションこの上ないが、
それを押し隠しているといった状況だ。

そんな中である。
「あれ? 克哉?」
突然懐かしい声に呼び止められて足を止める克哉。
振り返ると、ソコには大学時代付き合っていた元彼女が立っていた。

「わっ!? 美穂!? 久しぶり!!」
御堂の眉間に深々とした皺が刻まれる。
「あ、えっと、大学時代の友達の堀越美穂さんっ、です」
「えーっ、元カノって言ってよぉぉ」
御堂の眉間の皺通常の5割増し。(等比社)
「私、浅倉さんたちとも知り合いなんだよー」
「えっ!? そうなの?」
にへらにへら、と笑ながら手をふる浅倉ら女性一同。



結局女が1人増えて、男二人と女八人という、強烈なメンバーにてのカラオケがスタートした。
「今美穂は何してるの?」
「普通にOLしてる。でもカレシいないんだよねえ」
苦笑する美穂に、克哉も笑う。
「克哉凄いね、MGNで働いてるなんて。部長の補佐役なんでしょ?」
「うん、でもオレなんて」
「彼はとても優秀だからな」
「部長の..、御堂さんでしたっけ」
「ああ」
相変わらず無愛想に必要最低限の言葉のみを発する彼に、
少しばかり美穂は抵抗を感じているようだった。


アルコール類を注文して、盛り上がってくる。
克哉もほんのりと頬を赤らめているが、割合大人しく座っている。
その横をしっかりと陣取っているのは元カノだった。
「...」


「まさか克哉がMGNなんて大企業に行くなんて〜」
「うん、オレも驚いてるよ」
二人での会話を不機嫌そうに眺める御堂。

「御堂部長、御堂部長も何か歌ったらどうですかぁ?」
「..、わ、私はいい」
「佐伯くんのこと気になりますか?」
「いやっ、別に」
「御堂部長は佐伯君のこと大好きですよね」
「っは?」
若干ながら声が上擦る。


そんなことない、と完全否定しようとして克哉をちらりと見た。
克哉も少し心配そうに御堂を見ている。

「...と、当然だ。じ、自分の部下が好きでなくて部長ができるか

逃亡。

ド派手な逃亡劇に、全員がぽかんとなる。


「信頼しているぞ、佐伯くん、これからもよろしくたのむ」

そして最後まで逃げ切った!!

個室の中は、カラオケの伴奏が響くだけの、別の意味で静かな空間となった。

「佐伯君も御堂さんのこと好きよね」
「え? あ、オレ、オレは、...み、御堂さんはオレにとっての上司だし、憧れてるしっ」
我武者羅に御堂にあわせる。
というかあわせるしかない。

「良かった、何か御堂さんと克哉がなんかデキてるってのを聞いたからぁ〜
 ねえねえっ、!! 克哉ぁ、また縒り戻そうよぉ」

再度捕獲(克哉のみ)

「えっ...いや...その」
完全に挙動不審にしている克哉の手首を掴む美穂。
迫る美穂に、思わず克哉が叫ぶ。
「ダメっ!! オレはっ...オレには好きな人がいるからっ...!!」
「え? そうなの? 御堂部長以外に?」
「う、うんッ!! そう、スッゴイ可愛い子で!!」

「...」






「ごめんなさい、ごめんなさいっ」
「別に、あの時はああするしか他なかったからな」
「でも孝典さん怒ってる」
「当然だ。誰にでも良い顔をするからそうなるんだ。
 だが、ちゃんと断れたのは褒めてやる」
ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向く。
褒めてやる、の言葉に克哉も照れ笑いをする。
「だって、孝典さんが一番だから」
「っ...、君は」
「...?」
「歌もなかなか上手かったな。
 ...今晩は私の下で歌ってくれるな?」
「孝典さんの下でうた...」
どういうことかと訊ねようとして一気に赤面した。
「歌うってそんな」
「そんな可愛いことを言うからだ。
 あと...、誰も私の克哉に寄り付かないように目印をつけなければならないからな」
「目印って...、ちょ、あんま上にはつけないで下さいよ?」
「見えなくては意味が無いからな。
 それ、と...、彼女の話をもう少し詳しく聞かせてもらおう」
意地悪く笑う御堂に、克哉は真っ赤になりながら何にもないですと答える。

「告白したのは...彼女だな」
もっと詳しく聞こうと、御堂が推測して言ってみる。
「え? なんで分かるんですか?」
きょとんと顔を上げた克哉に、御堂は笑った。
「見ていれば分かる。向こうの方が明らかに積極的だからな」
やたらと克哉にくっついたり、
手首を掴んで迫ったり、迫ったり迫ったり迫ったり迫ったり(エコー)。

「私としては君の方から私に告白してきた方が驚きだった」
ついうっかりそんなことを言って、御堂はハッとして克哉を見た。
すると克哉は苦笑して言った。

「そんなにオレってヘタってますか?」

自覚がないんだろうか、克哉。

「いや、だから...、私から言おうと思っていた」
「そうなんですか?」



ゆっくりと歩くマンションまでの静かな道のりに、
二人だけの幸せそうな声が反響していた。







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