「昼? いいよ、オレまだ仕事残ってるし」
「つれねえよ、克哉」
仕事の都合上昼時に暑苦しい本多の声を聞いて
眉を顰めている御堂。

「...(私はあんな笑顔みたことがない)」

※克哉の笑顔=苦笑。


「(克哉の全部を知っているのは私だけのはずなのに)」
カチカチとボールペンの芯を出し入れを激しく繰り返す。


「御堂、この件だけど...」
「その件に関しては先週言っただろう。
 全く君は学習能力ががないのか?
 チンパンジー以下だな。
 筋肉ばかり発達しているところを見ると、
 君はネアンデルタールか?」
いつもに増して罵詈讒謗の鋭い御堂に、本多もついカッとなる。

それが嫉妬心からだということを誰が気付くであろう。



見慣れた光景を目の前に、
ぼーっと座っている克哉。


「全く本当に君は脳みそまで筋肉に侵されているんじゃないのか」
「そういうお前こそ、なんだ? 克哉をいつもこき使いやがって」
会議中に勃発した、
既にもう第何次か分からなくなってしまった口論。

「(いいなぁ、あんなに楽しそうに話して)」
段々克哉の脳内に狂いが生じてきたようである。

しかしながら御堂がこんなに暴言というか、
怒りを露にして人の悪口を言うのは克哉と二人の時には皆無で、
そんな御堂を見れる本多をある意味羨ましく思ってしまう。
「(御堂さんの全部を知ってるのはオレでありたいのに)」
いつのまにかそう思っていた自分が恥ずかしい。

「なんだよ、克哉」
「え?」
「今、『いいな、本多』って言ったじゃねえか」
突如目の前に本多の顔がぬっと現れて思わず椅子を引く。
声に出ていたのだ。
「い、いやっ、そのっ、なんでもないよ」
「そうかぁ?」
う、うん、と笑ってみせる。


ミーティング終了後、会議室を後にする。
エレベーターに御堂と二人で乗ろうとしていたとき、
本多が走ってきた。
エレベーターのボタンの前に立つ克哉に、
周囲の目を気にすることなく手を振り上げて叫ぶ本多。
「おーい、開けといてくれー、俺も下に」




「ちょ――ッ!! 克哉!?」





片桐と共に残された本多。
意味が分からずただ立ち尽くす。

「き、聞えなかったんでしょう」
「聞えてなかったように見えますか?」
「い、いえ...あ、あまり」
気の毒そうに目を背ける片桐。
必死で話題を変えようと周囲を見渡す。

「御堂もいつもに増して眉間の皺が」
くいっと眉間に指を当てて御堂の真似をする。
片桐もそんな本多に思わず噴出す。
「急いでたんだよな!! きっと」

ポジティブな本多だが、
本当に悩むのは、この後2日間メールをしても電話をしても
克哉が何の返答も見せなかったり、
街で見かけたとき、
ジャージのフードを唐突に被って逃げられたり、
何故か克哉からの連絡が来ないのに反比例して
MGNからの広告メールが大量に携帯やらパソコンに届いたりすることだった。
しかも宛名が『丸ごとカレー様』と『熱血バレー様』の2タイプあったのに、
本多は気付いたのか気付かなかったのか...。



しかしその原因が分からないまま、
適当に過ごす本多なのであった。







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