「...誰」
「御堂だ。御堂孝典」
もう何度目になるのか分からない自己紹介をした。
克哉はその虚ろな瞳で私を上から下までさらりと見ると
興味なさそうに再び窓の外を眺め始めた。


季節は春になった。
去年桜を見て、克哉はそれを嫌いだと言っていた。
時折風にゆすられて桜吹雪をつくる桃色の景色を
克哉はただ眺めながら、今日も静かに一日を終える。

「明日もまた来る」
「...」
面会時間が終わり、私はまた自宅へ戻る。



克哉がいなくなったマンション。
克哉と出会う前にはそれが当然だったのに、
今となってはそこは広すぎて、
寂しさだけが我が物顔で居座っていた。

克哉の部屋。
服や小物に関連して、それに纏わるエピソードが
走馬燈のように脳内を駆け巡る。


次の日、会社も休みだったので、朝から克哉を訪れた。
「克哉、おはよう」
「...」
「克哉」
肩に触れると、吃驚して克哉は私に視点を合わせた。
「それ、オレの名前?」
「そうだ。佐伯克哉、お前の名だ」
「ふーん」
それはもう彼にとって必要のないものだったのだろうか。
彼は私の名も問わずにただ窓の外の桜散る景色を眺めていた。
彼のそんな桜を眺める表情はとても切なく、
まるで桜の花のように儚いものに思えた。
「林檎でも食べるか」
「りんご?」
「甘くて美味しい」
「...」
少し剥いてやると、克哉はその甘酸っぱい匂いに誘われるように、
興味津々な瞳を輝かせこちらの林檎を眺めてくる。
しゃりしゃりと皮を剥き、小皿に乗せて楊枝を刺して渡してやる。
克哉はしばらくまた匂いを嗅いだ後に、
その口で小さく味見をするように齧った。
克哉は何も言わなかった。
その味を表現する言葉を忘れてしまったのだろう。
ただにこにことしながら、それを口に運び続ける。

食べるとお腹がいっぱいになり眠くなったのか、
すぐにごろんと横になった。
「おいおい、食べてすぐ寝ると...」
微笑して克哉を覗き込むと既に彼は眠っていて、
私は溜息を漏らした。
それでも、幸せだった。
「こんなに無防備な顔をして...」
そっと克哉の頬にキスを落とした。

克哉の横で本を読みながら、
私は静寂の中で過ごした。
時折克哉の寝息が聞こえるだけの病室。

しんしんと舞う桜の花びらは、もうそろそろ終わりを告げていて、
緑の若葉が顔をのぞかせている。
「...ふぁ...」
「...」
克哉が起きたようであった。
私は本を横に置き、克哉を見た。

寝ぼけ眼の克哉は私を見上げ、



頬を桜色に染めた。


私はただその状況が掴めなくいた。
「たか、のりさん...」
走馬燈でも見えたのだろうか。
横たわったままの克哉は覚えていないはずの私の名前を呼んで、
静かに微笑むと私に手を伸ばした。


私はその手に導かれるまま、
もう何ヶ月ぶりかになる、キスをした。

「だい、すきです...」



息が止まると思った。

でも、言いたいことがあった。
私を知る克哉に。



「愛している。いつまでも永遠にだ」

寂しかった。
いつも寂しかった。
克哉のいない毎日は、泣き叫びたくなるほど
虚しく、
その意味もあやふやになりつつあった。

「良かった」

再度唇を重ねる。
ほんのり甘酸っぱいキス。
照れくさそうに克哉は笑って、
そしてまたゆっくりと瞼を閉じた。

力なく克哉の白い手が静かにことんと落ちた。
そして、克哉は再び眠りについた。
克哉の閉じた目から、涙が一筋、頬を伝い落ちた。

「克哉」




私は、咄嗟に枕元のナースコールをに押した。

そして、廊下に飛び出ると、
看護婦を探した。
しかし克哉がまた目を覚ますことはなかった。
まだ生きてるんじゃないかと、
目を覚ましてくれるんじゃないかと思いながら。

しばらくして、自分の頬を流れる涙が、
それが現実であることを教えてくれた。


走馬灯が見えたのは私の方で
その瞬間、私の頭には克哉の笑顔ばかりがシャワーのように溢れてきた。
堪えきれなくなった涙は絶えることなく克哉の寝ているベッドを濡らし、染みをつくった。


最後の私はちゃんと笑えていたであろうか。

克哉の最期に、ちゃんと残せたであろうか。




過去に戻ることができたなら、
私は克哉に何をしただろう。
たぶん同様に、名前を呼んで、抱きしめて、キスをして、笑って、
きっと何も変わらなかったと思う。
変えられなかったと思う。
だから後悔などという気持ちはもうない。

克哉にであえたことも、
恋人であることも、
笑って<別れた>ことさえも。
克哉の笑顔の一つ一つが輝いて私の中を照らしている。
克哉の中でも私は光っているだろうか。

時は過去の中に、君と私の愛を刻んだ。











***********************************************
***********************************************

恐怖の反省部屋。

終わった!!!!!!

ホントは途中で克哉自殺フラグではなくて、
御堂に別れを告げさせて、
それでも御堂にそれは本心じゃない系のことに気付かれて
真実を告げざるを得ない状況作ろうと思ったんですが


無理矢理☆


ホント何とか終わりました。良かったです。
文書は相変わらず莫迦っぽくてすみません。くどくてすみません。
途中で御堂さんが御堂さんじゃなくなってすみません。


誤字脱字はメルフォにてお願いします。
文句も同様にお願いします(笑。
もし、ホントもしお気に召していただけたのでしたら
拍手なんかをぽちっと押していただけたりすると
更新スピードなんかがUPしたり、します。多分。

ホント、読んでくださりありがとうございました!!







戻る