「放送部?」
間抜けな声を上げた由悟はまだ腰が抜けて立てないようだった。





入学式を終えた教室に、突如高2生の数人がエアガンのようなものを持って乱入してきたかと思えば、
由悟以外を教室から追放して、彼を人質として小一時間拘束した。
解放されたと思えば、とたんに高2が由悟に向かって土下座をした。
「ごめんね!! えっと...、放送部のアナウンサーコンテストで、ドラマ作成してたんです」
一気に腰の抜けた由悟を支えたのが、今回のドラマで主人公を努める黒沢遼太郎だった。
ストーリー的に言えば由悟は彼に助けられたことになっている。
「な、何だ!? こ、こっち見んな!
 主人公ぽっくねえけど、じゃんけんで負けたから仕方ねえんだよ」
顔を真っ赤にしてぷいと顔を背けた彼。
「いえ、別に...格好よかったですよ」
何も考えないまま、考えられないままに発した言葉に自分自身も若干驚いた。
彼はバッと一瞬由悟を見ると、ますます顔を赤らめて声を荒げた。
「ばっ...、お前高1の癖に生意気だっつーの!! 死ね!!」
「す...すみません...」
トマトのように耳たぶまで赤く染め上げて怒鳴る遼太郎に、由悟は少し笑いそうになった。

「あ、村神くんだっけ!! 君放送部入部決定ね。
 あと数シーン君には登場してもらわなきゃいけないから〜...、
 ああ、もう楽しみだなぁ、くふふふふ」
部長であると思われる男が勝手に決定。
断る間もないままに由悟はいつの間にか放送部に入部することになった。



***



花々の香りが満ち溢れた部活棟は今日も倦怠感が充満していた。
五月病というやつだろうか。
「こんにちは」
ドアを開けようとして室内からあふれ出した気力の無さに、思わず由悟は扉を閉めそうになったが、
彼の後ろから登場した遼太郎によって、部室に強制的に入らされた。

「あ、あの...よろしくお願いいたします、高1村神由悟です...。...?
 ...って!! なななななに見てるんですか!!!」
後輩の挨拶そっちのけで、部長とその他部員数人が先日の由悟人質事件のビデオを見ていた。
泣き喚く自らの姿に思わず便乗して泣き叫んでしまう由悟。
「こ、これはなんていうイジメですか」
深く溜息をついた由悟は、ビデオの電源を何とか切った後に、目を疑った。

「...おんな、の子?」
男子校のはずなのに、部室の隅に笑顔の部長と、セーラー服を着た女の子が背中を向けている。
「し、死ねえええええ!!!!!!」
女が声を上げたと思えば、ドス低い男声で衝撃が走った。
「そ、その声は...黒沢先輩...?」
部長を殴りかかろうとして、カツラが揺れ、頭からずれ、遼太郎の視界を遮ったために、
まったく無意味な暴挙になっている。
「黒沢くん、恥ずかしがらないの!! 超萌えなんだからぁww」
うふふ、と笑う部長の顔面目掛けてウィッグを投げつけ、
部長の胸倉を掴み、罵声を上げる。
それでも部長は照れながら笑う。
「ちょ、黒沢先輩、落ち着いてください...、別に全然変じゃありません!!
 むしろ可愛いと思......ふがっ!!」
腹部に激しい痛みを感じて由悟は小さくなる。
「それがムカつくんだよ!! 死ね!!」
屈んだところに更なる蹴りを入れる。
「わああああッ、や、ヤメっ...先輩やめてええええッ!! パンツ見えるから、パンツ!!」
「!? だ、だああああああッ!! し、しっ...死ねえええ―――――!!」

究極にボコられた後、台風一過のように静かになった部室。
「(あの反応は反則です...よ...)」
ふと考えた自らの思考回路に、由悟は一瞬バグをした。
「(オレ...、今男相手に何考えた...?)」




一度考え出したらノンブレーキで、
坂道を転がり落ちる蜜柑のように―――

「由悟ォォォォォォッッ!!!」
「へ?」
自宅前の坂を上っていたときであった。
突然上から遼太郎が自転車に乗ったまま急降下してくる。
上りは心臓破りの坂と呼ばれるその坂で、
明らかにジェット機級のスピードが出て、そのまま飛べるんじゃないかと思うスピードで降りてくる遼太郎。
「ブレーキ壊れたぁああああああッ!!! し、死っ、死ぬ―――――ッ!!!!」
完全にノンブレーキで転がってくる自転車を前に考える暇なんてなかった。
ただあなたを助けたいと思ったから。

凄まじい音と共に、二人してその坂を数メートル転がった後、静止した。
「ってぇ...」
頭を押さえて、自分が三途の川へのダイブをしたわけではなかったことに気付き安堵する。
そして字分与李も坂の下方に転がったままの塊に気付き、ハッとして駆け寄った。
「...由悟...?」
物凄い勢いでアタックをされた気がする。
自転車が由悟にぶつかったと言うよりも、
由悟が自転車に体当たりをしたという方が正しいかもしれない。
その分由悟へいく負担も大きかったはずだ。
「由悟!」
うつ伏せで地面に明らかに熱烈なキスをしたままぴくりともしない彼に、
遼太郎は顔面蒼白だ。
「い、意味わかんねえ...よ..。なんで突っ込んでくんだ...お前」
ほろりほろりと涙が零れた。
「し、死ぬな..」
歪んだ視界で大きな物体がごろんと動いた。
「せ、先輩...」
自ら仰向けになると、ぽわぽわと遼太郎に焦点を合わせる。
「よかった...無事で」
無邪気に笑った由悟のその顔が忘れられなくなった。

「莫迦!!」
「ぐはっ!!」
しんみりとした空気を遼太郎が押し潰した。
仰向けで体重をアスファルトに預けたままの由悟の腹部に遼太郎の鉄拳が入る。
凄く空手部の瓦の気持ちが分かった気がする。
「し、死ぬ...」
自転車事故直後よりもグロッキーな彼だが、
遼太郎はぷいと背を向けたままだ。
「お前が死んだらどうするんだってーの」
今由悟を殴り殺しかけたのは遼太郎なのにおかしな奴である。
照れくさそうに吐き捨てる台詞は、それでも彼なりの優しさだった。
由悟はそれに気付いて、少し微笑んだ。
「先輩が死んだらどうするんですか」
自分でも口から溢れる言葉に歯止めが利かない。
自分は、
遼太郎のことが好きなんだ。
撮影と言うのは分かっていても、あの人質という状況から助け出してくれたのは彼で、
あの瞬間から彼が好きになってしまっていたのだと思う。
「...」
由悟の言葉に不審そうに遼太郎が振り返った。
今の台詞がマズかったのかもと、咄嗟に
「先輩は主人公なんですから」
と付け足した。
やはりこんな、同姓を好きという感情なんておかしいと思った。
きっと遼太郎はそんな自分に嫌悪する。


主人公だから死んだら困るというような彼の発言に何らかの不快感を覚えた自分に嫌悪する。
まるで自分に猜疑心だとかそういう感情を抱かないまっすぐな彼の性格が、遼太郎の心を狂わせる。
こんな感情は、知らない。

「やっぱ、お前...」
「え?」
真面目な声で呟かれて、思わず由悟の顔からも表情が消えた。
空気が存在感を増した気がして、由悟は苦しそうに息を呑んだ。

「死ねええええええええッ!!」
「ぎゃああああああああ!!!」
手加減なしに首を絞めてくる彼の背中を叩いてギブアップのサインを送る。

「し、じ、じぬ...」
「え? ...っぁ!! ご、ごめッ!!」
正気に戻ったとみられる遼太郎はなんとか手を解き、由悟は一命を取り留めたのだった。




昼休みの放送を流しながら、今日も放送部はアットホームな雰囲気を漂わせていた。
リクエストに応じた曲を流し始めると、外部音声用のマイクの電源を落とした。
「ふー」
「お疲れ様。相変わらず萌えボイスだね、ツンデレ君。うふふふふ」
部長にポンポンと肩を叩かれて眉を顰める遼太郎。
「死んでくださ...、大体ツンデレって何...、あ? あれ、由悟は?」
「何か用事あるって言ってたなぁ...。どうしたの? 気になる? かわいいなー、デレ発動?」
「死ね。...あいつの所為で放送開始時間2分47秒送れた」
「彼凄いいつもしっかりしてるもんね。真面目な後輩萌えるよ」
責任感があるから、今日も体育倉庫の片づけを手伝わされるんだと笑う。
そこで遼太郎はハッとした。
何か良からぬことに由悟が巻き込まれているような気がして、トイレに行くと言って部室を出た。
もしかしたらドラマや何やらで見るイジメと言うものかもしれない。
虐められて泣いている由悟の姿が自然と脳内に展開されて、足を止めた。
「...」
今自分はきっと顔が真っ赤だと思った。
一気に耳まで熱くなったのが分かる。
ないている彼の顔が可愛くて―――誰にも見せたくないと思った。

こんなのおかしいと思う、
気持ち悪いと思う。
由悟はただの後輩で、それ以外のなんでもなくて、男同士で、
それでもこの気持ちはきっと特別な感情。
名前を付けるなら、これは、恋。
はじめて逢った時の衝動に似ていた。
教室で泣きそうな顔をしていた由悟を、
演技でもなんでもなく助けたいと思ったあの時。

「...」
気付いたら無意識のうちに体育館前についていた。
倉庫の方をゆっくりと覗いてみる。
なにやら声がした。
「村神くん...、俺と付き合ってくれない?」
耳をそばだてて音をつなぎ合わせて、脳がフリーズした。
灰化した思考回路を無理矢理起動させる。
何とか脳というパソコンがデスクトップを表示させた状況で、更なる音が耳から入ってくる。
「オ、オレ...、す、好きな人いるから...」
パソコン休止モード。
視界がじんわりと白くなっていく。
いつの間にか自分が泣いていることに気付いて、体育倉庫の前から走り出していた。

「っと...!?」
ジャリ、と石の蹴り付けられる音に、由悟は吃驚して音源を見る。
そこに走り出す遼太郎が見えて、体中から血の気が引いた。

男子校で告白された。由悟は正直その事実に安堵していた。
自分だけではないと思えたからだ。
だからいつか遼太郎に冗談交じりに言ってみようとも考えた。
――告白現場を聞かれなかったら。
「どこから聞いていたんだ...」
体中に嫌な汗が吹き出る。
「...黒...沢...先輩...」
苦しい。
喉が詰まって、息をするのも辛かった。
一人冷たい壁に身体を預けて小さくなった。
「...好き...」
誰にも聞こえないまま空に吸い込まれた音は、
夏の終わりを告げる風に拡散させられた。




放送部の部室へ行くとそこには遼太郎はいなかった。
そして次の日もその次の日も、お昼の放送のときでさえ、
彼は顔すら出さない。
廊下でたまに見かけることはあるが、
大抵彼は誰かと話しており、何も話せないままだ。
誰かと笑っている遼太郎が、そして相手が妬ましかった。
彼の笑顔が、自分以外に向けられるその笑顔が、由悟の胸を酷く抉った。

「...また、笑ってる...」
「どうした? 由悟」
「え? ああ、ううん、何でもないよ」
友人と話していても、遼太郎のいる高2教室が気になって仕方がない。
友人には、愛想笑を振りまく。





冬の冷たい匂いに鼻の頭がツンと痛くなる。
外気はとても冷え込んでいるが、心の方がよっぽど寒い。
「...死ね」
その言葉とは裏腹に切なげな表情の遼太郎は、今にも泣きだしそうな空を見上げた。
「...寒っ...」
マフラーを巻きなおすと、クリスマスに彩られた街へと足を速めて歩き出した。


クリスマスシーズンで夜でも昼間のように明るい。
それでも心はいつまでも暗いままで、
楽しそうに横を通り過ぎる恋人同士を見るたびに、自分の中の何かがごろりと重たく蠢くのが分かった。
高校生活初めてのクリスマスを目前にして、由悟は最悪至極な雰囲気を漂わせていた。
まるでそれに便乗するかのように、まもなく冷たい雨が降りだした。
鞄の中から折りたたみ傘を取り出すと、由悟はゆっくりと家までの道のりを歩き始める。
この心臓破りの坂を上るたびに、あの日の出来事が甦る。
あの日に戻れたら、あの日もっと別の言動を選んでいたら、
今は違ったのだろうか。
あの人の笑顔が、あの人の自分への笑顔が見たい。
過去の自分に対する笑顔ではなく、今の自分に笑って欲しい。


出逢わなければ良かったのに。
遼太郎は自棄になってそんなことを考えながら、
喧騒に溢れた、それでいて静寂に凍った街を歩いた。
しとしとと突然雨が降り出して、遼太郎はコンビニの入り口前に駆け込んだ。
「ったく――」
改めて雨の降る景色を眺めて、思考が停止した。
「...ぁ...」
「ぁ...」
バッタリと遭遇した二人は静止した。
目を逸らすことを忘れ、由悟は遼太郎を、遼太郎は由悟を凝視する形となった。
これは神様の悪質極まりない悪戯だと思った。

逃げてはいけないと、由悟は踏みとどまった。
今の自分には彼の存在が辛すぎた。
それでも、今逃げたらきっと後悔する。
最善の選択肢を、脳内で選ぶ。
「...先...輩、...これ、使ってください」
遼太郎の前に傘を置いて走り去る。
目尻が熱くなって涙が迫り上げる。
頬を伝うそれがもう雨なのか涙なのか分からない。
家に駆け込んで、玄関でしゃがみこんだ。
嗚咽する声が漏れる。
彼のことをいっそ忘れてしまえたら楽なのだろうか。



クリスマスイブだった。
日に日に身体は重くなるばかりだ。
突然携帯のメール通知音が鳴って、慌ててポケットから電話を取り出し、
画面を見て、震えた。
『傘返す。20:00に公園で』
簡潔すぎて乱暴極まりない文章。
それでも由悟に様々な感情を呼び起こす。
逢いたい、逢いたくない、逢いたい、逢えない。
逢ったらきっと、気持ちが爆発する。
前回コンビニのところで会ったとき爆発しなかったのが奇跡とも言える。

それでも、いつのまにか公園に着いていて、時計を見てつくづく自分に呆れる。
19:00
「オレ虚しい...。莫迦みたい」
自嘲交じりに笑ってみせる。
白い息が空に消えていく。
ベンチに腰をかけると、ベンチの冷たさが厚着越しにもわかる。
ただ何をするわけでもなく、ぼうっと待っていた。

一時間待つというのはかなりの辛抱が要った。
ベンチからどんどん体温が奪われ、
手先も冷たくなり、顔面が外気に晒され痛い。
目の前のコンビニで待っていればいいものを、
前回そこでバッタリ逢ったことを思い出すと入るに入れない。


20:00になった。
時計を見てはしきりに辺りを見回して、遼太郎の影を探す。
それでも誰も居なくて、空が、泣き始めた。
「...ぁ...」
間もなく雨は本格的に降り始め、
夜闇の冷たさと雪に似た雨の冷たさに、由悟の体温は更に奪われていく。

コンビニに行こうか。今更ながらそう思ったが、
今となってはもう、遼太郎と入れ違いになる可能性が生じるから、できなかった。
降りしきる雨の中、ただ由悟は待ち続けた。
「オレ...本当に、莫迦だな」
それでも 今帰ったら数秒後に遼太郎が来てしまうのではないかと思うと帰れなくなる。
あと一分、あと一分と自分に言い聞かせるうちに、
髪も服もずぶ濡れになった。
もう無駄だと分かっている。
でも心のどこかで、この恋がドラマみたいにハッピーエンドになることを願っていた。


傘を握り締めた。
ずぶ濡れな由悟を見ながら、どうしても一歩が踏み出せないでいた。
「...何であいつ、いつまでも...。風邪引くじゃねえか」
そんなに待たれたら期待してしまう。
あいつには好きな人がいるっていうのに。
遼太郎には由悟の行動が不可解極まりなくて、彼自身の気持ちまで複雑になる。
「っ...」
かくん、と由悟の身体が蹌踉めいた。
無意識に視界が白ずんだ。
自分が泣いているのだということに気付くまでに時間を要したが、
身体が動くのに全く時間がかからなかった。
必死で二人の距離を埋め、腕を伸ばした。
「由悟」
抱きしめた身体はもう冷えきっていて、強く強く自分の身体を由悟に密着させた。

名前を呼ばれた。
大好きな声で。
そして、大好きな匂いに包まれて。
強く身体を抱きしめてくれるその力が嬉しかった。
「黒沢さん...」
とても暖かかった。
「...す...き....」


耳を疑った。
自分はこんなにも悪いことをしたのに。
好きだって―――。
「 」
好き?
好きって何だ?
すき焼きではないよな、数寄?
再度耳を疑う。
「黒沢...さん...、オレ...好きなんです...」
脳内に、エラーを表示するブラウザが沢山立ち上がって、
画面すら見えなくなる。
「...そっ、それはlikeなのか、loveなのか...?」
「...。」
「...?」
由悟が慌てて遼太郎の顔を覗き込んだと思えば、
何の前触れもなく唇が触れた。
その贈られたキスに遼太郎は目を見開いた。
ひんやりと冷たい由悟の唇が、自分の赤面による熱い唇に触れられて、
更に熱を帯びるのが分かる。
「な――」
驚きすぎて、口を金魚のようにパクパク開閉させている遼太郎に由悟は笑った。
「そんな選択肢を用意されたら、OKって言ってるようにしか聞こえませんよ?」
「!!」
遼太郎と視線が絡む。
由悟の色っぽい視線に遼太郎はドキリと心臓が高鳴るのが分かった。
全身が心臓になったみたいだ。
「っでも...、でもお前好きな人いるって...」
「へ? ...あ、そ、それは...黒沢さん、のことで...」
遼太郎はその「黒沢さん」という呼ばれ方がとても心地よくて、自然と目を瞑った。
こんなにも悩まなくて良かったのではないかと自嘲的に口を歪めてみる。
そのとき――。
「――っ!?」
由悟の身体が傾いて、ゆるやかに崩れ落ちていった。
なんとか遼太郎は彼の身体を支える。
雨に打たれ続けた彼の体は酷く熱を放ち始めており、
そこから彼の体調の不良は一目瞭然で分かった。
「お、お前の家、どこだ?」
「...」
答えられずに荒い呼吸音を漏らす由悟の横顔にとても緊張してしまう。
「だぁぁぁッ!! 今日うち深夜営業で誰もいねえんだよ!!」
居酒屋を経営している彼の家では、クリスマスや年初め、何らかの行事ごよにまとまった客が入るため、
店から100mほど離れている自宅には遼太郎だけが留守番となる。
一人で叫んでも何の応答もなく、ただ喘ぐような呼吸を繰り返す由悟に、事の重大さを知る。
「待ってろ...。死ぬなよ」
由悟よりも若干小柄な遼太郎は家までの道を
由悟の身体を懸命に背負って歩く。
由悟が圧し掛かってくるその重さが嬉しかった。
握る手は細くて白くて女のもののようだった。
「(綺麗な手...)」
長い指に触れるとピクンと彼の身体が反応するのが分かった。
彼の全てがこんなにも愛しい。
こんなに密着しているのに、もっと傍にいたいと思う。
単純に自分はこいつに溺れているのだということを自覚する。
ひんやりとした闇の冷気が気持ちいいのは、遼太郎の身体が火照っているからだろう。
白い息が舞うテンポも心なしか幸せそうだ。
何とか自宅に着くと、適当に暖房をつけた。
服を着替えさせようと上着のファスナーに手をかけた。
「大胆ですね」
声が突然上から降ってきて視線を上げた。
まだ顔は赤くうつらうつらとしているが、目を覚まして悪戯っぽく微笑んでいる由悟がいた。
「ちがっ...」
「オレを暖めてください」
「〜〜〜っ!! し、死ね――!!」
一気に再起動が必要となった脳で、
由悟から目を逸らそうとして窓の外を見やると、闇の中に白い華が見えた。
「...ぁ...雪...」
「あ、本当だ。ホワイトクリスマスってやつですね」
いつの間にか、声を上げて泣いていた空は花吹雪を降らせていた。
闇によって景色がとても奥行きがあるように感じられた。
それを飾る純白の結晶を見ながら、由悟は遼太郎を気遣うようにそっと、触れるか触れないかの感覚で抱き寄せた。
「黒沢さん...」
熱で体温が高い由悟の身体は、少し冷えた遼太郎には心地よく、
その幸せを確かめるように遼太郎はうっとりと目を閉じた。
その声で、もっと名前を呼んで。
「愛してる」
「黒沢さん...大好き...大好きですっ」
「ちょ、...うわ!?」
自分から愛していると言ったのはほとんど無意識で、
どうして自分の口からそんな恥ずかしい言葉が出てきたのか分からなかった。
由悟はそれが嬉しかったから強く強く、先ほど公園で遼太郎に抱きしめられたときのように抱きしめ返した。
「離せって...、お前熱あるんだろ...っ」
思ったよりも力強く、遼太郎に彼の腕を解くことはできなかった。
もしかしたら彼には本気で由悟の腕を解く気は無かったのかもしれない。
「愛してます...。絶対もう離しません。あ、あの...キスしてもいいですか?」
「っ...!! そんなこと、聞くな莫迦!!」
「あ、じゃあ勝手に」
既に日付が変更してクリスマスを迎えた今日、
由悟は遼太郎に深いキスを贈った。








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後書き

親友の子に、
贈った小説。

です。

こんなんでよかったかなぁ...はらはら。







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