「克哉」
朝目覚めて、横で眠る克哉に声をかける。
穏やかな吐息が途切れ、呻くような苦しそうな声に変わった。
「ん...孝典...」
顔は私とは反対の方を向いているので見えなかったが、
その声に私はぞっとした。
「克哉!!!!???」


「ん...う...ぁ...おはようございます」
のっそりと体を起きあげ、こちらを向いた克哉の表情は、いつもどおりで、
色っぽくその瞳をとろんとさせていた。
「...」
「どうかしま......あ、あれ...、あー。あー」
喉を押さえながら、克哉が気味の悪そうな顔をする。
「こほっ、こほっ。...喉嗄らしちゃったみたいです...」
その声は、出会った頃の佐伯...、
眼鏡をかけた佐伯克哉の声にそっくりだった。
もともと同一の体を所有しているのだから声帯も同じなわけであるが、
克哉の穏やかな声とは違い、佐伯の声は、低く、鋭い。
「こほっ...、うぅん」
「昨晩はいつになく喘いでいたからな?」
「っ...!! た、孝典さんッ!!」
「...」
佐伯に似た声でそう呼ばれると気味が悪いというか、むしろ滑稽でもあった。
恥ずかしそうに耳まで赤くして、克哉は俯く。
「と、とにかく、朝食の支度しますね」
ふわりとベッドから降りようとする克哉の腕を掴みそれを阻止すると、
ぐいっと引っ張り、私の胸に引き寄せる。

「孝典さん?」
不思議そうなその声はまだやはり低く色っぽい。
「今の君の啼き声が聞きたいな?」
「......ぇ...、ぁ、う」
戸惑いながら、すぐにかぁっと顔を林檎のように赤く染める克哉。
「君は本当に可愛い」
体を起こし、克哉の上を誇ると、そのまま激しくキスをした。
「ん、ふぁ...ぁ、た、たかのり、さんっ...、まだ...朝なのに...」
自分でも本当に朝っぱらから何をしているのだと思う。
低く艶やかな克哉の声は、とても新鮮だ。
まるで、出会ったばかりの、あの生意気だった<佐伯克哉>を犯しているようでもあった。
本当に別人のようだ。

いつだか克哉から「眼鏡をかけると自分が自分でなくなる」ということを相談されたことがあった。
確かに、本当に別人のようだった。

しかし...

「君は、君だな」
「は、ぇ? ...んっはぁぅッ」
先ほどのキスでもう体のは反応したのか、
可愛らしい乳首が赤く尖っている。
その飾りを指でこりこりと摘んでやると、ビクンと体を震わせ、喘ぎ声を上げる。
低く、艶やかな声だ。

今度は乳首に唇を添えて下を宛がう。
「んっぅ、ぁ...、」
ビクビクと震える克哉を抱きしめながら、今度は片手を、克哉自身へともっていく。
既に先走りを溢れさせ、ヌルヌルとしているその先端を丹念に扱く。
「ぁっ...ぁあっ...!!」
「君のそんな声も素敵だぞ? 随分とそそられる」
「んっ、ふぁっ、そ、んな...こと、ない......ひゃぁああッ、やだっ...もう我慢できないっ...で、す」
「そうか? 朝なのに、こんなに乱れて..」
先ほどの言葉をそのまま返してやると、
克哉は顔を真っ赤にして唇を動かす。
「だ、だって...、たか...のりさんが...さわ、る...から...」

克哉は意識して言っているんだろうか。
これが無意識なら、犯罪、だな。

私はくすりと笑いながら、そんなことを考える。

「たかのり...、さん、...挿れて...?」
自ら足を開いて、懇願する克哉に、
私も限界を感じて、後孔に自身を宛がう。
克哉のソコがヒクついているのがよく分かる。
「ぁ...、あ、早く...」
「こう、か?」
一気に奥まで、突くように刺激して、
そのまま抜き差しを繰り返した。
「あぁッ! んっ、はぁッ!! イイっ...、たかのりさんっ」

ギシギシと軋むベッドの音が、
2人の動きの激しさを耳から教えてくれる。

「んっ、ふぅっ...、イ、イクっ...イきたい...」
「そう焦るな...、克哉、もう少し、だ」
私も十分な快楽を得ていたが、
もう少し克哉の喘ぎ声を聞いていたい。

きゅ、と克哉のペニスの根元を握る。
「ぁ...やら...、イかせて、ください」
快感に顔を歪ませて、涙を浮かべて私に縋る克哉。
そんな彼の泣き顔に、たまらなくそそられると思ってしまう私は最低なんだろうか。
「た、か...のりっ......んっ、や、ソコは...!! おかしくなるっ、もう無理、無理ぃ!!」
「分かった、私も、一緒にイこう」
ギリギリまで追い詰めて、手を離してやる。

ぶるりと克哉の体が震えて、自分の腹の上に勢いよく精を散らす。
私も克哉の中に深く精液を挿入した。








「朝ごはんはこれでいいですね」

乱暴に食卓テーブルの上に置かれたのは、
いつの間に買ったのか、キムチがあった。
「な、何故これを」
「先週御堂さんが3日間関西の方に行かれていたので、その間にビールのおつまみに買った残りです」
独特の匂いを発するその赤い物体は、私の嫌いな食べ物である。
しかも朝食からこんな。

しかもその鋭い低い声故、一層迫力がある。
相当怒っているな、克哉。

「だって、今日は一緒にどこか行こうって言ってたじゃないですか。
 腰痛いし、立ってるのもやっとなんで、どこにも行けないし...
 だから料理も出来ません。折角これがあるから食べてください。
 納豆と一緒に食べると健康にいいんですよ」

冷酷な声に、
私は成す術なく、
それはもうゆっくり、少しずつ出されたキムチを食べるしかないのだった。







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