「本多、何? 話って...」
唐突に居酒屋に呼び出されたと思えば、
沈黙が訪れる。

明らかにいつもと違う本多の様子に、克哉は不思議そうに問う。


「えっと...、その...」
「なんだよ、もう」

「あのな、克哉」
「もったいぶった言い方するなよ。何?」

「あのさ...絶対ドン退いたりしないでくれるか?」
「何言ってるんだよ、オレとお前は何があっても親友だろ?」




「......」
「......?」

別におかしなことを言ったつもりはないのに、
急に灰のようになってしまった本多に、
克哉は首を傾げる。

「で、オレを何で呼び出したの?」

「(告白するためとか言えねえ!!!!)」


「何かお前、悩みでもあるのか?」
ずい、と顔を寄せてきた克哉に胸が高鳴る。
「あ...るかもな...(恋の病、だな...ハァ)」
「そうなのか!!? だから呼んだのか?」
「まあ、(ある意味)そうなんだけどよ...もういいんだ...」
「何で? 解決したのか?」
「や...解決した...っていうか...その、さ、諦めた...というか。今のままでもいいかなーって」

「そうなのか? 辛かったら言ってくれよ? オレ本多のこと好きだから心配なんだよ」




「(好きだから?)」



途端本多の表情が真剣なものになって、
克哉の手を握った。

「あのな!!! 克哉!!」

「え、う、うん?」

「俺は、お前が!!!」

「ぅん」



「す!!!!!!!!!!」
PiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPi



「あ、ごめん、オレだ...。ちょっと待って」
「...へ」


「あ、御堂さん? え? 迎えにきてくれたんですか? 今横の駐車場にいる?
 あ...でもオレ平気です。まだジョッキ半分くらいしか飲んでないし...」


本多の計画が崩れ落ちた瞬間。





「...で。何で御堂部長までこちらに」
「折角来たのだからな。克哉もゆっくり飲みたいだろう?」
「あ、でも、その...、オレは大丈夫なんですが...」
克哉は嬉しそうに俯いた。

「ていうか!!! 何で御堂部長が克哉のこと克哉って呼んでるんですか」
間を空けてさり気ない御堂の宣戦布告に気付く本多。
「当然だろう? 克哉は私の直属の部下だ」
「だからって名前を呼ぶこととどう関係があるんですか」
「本多、別にいいじゃないか。本多だってオレのことそう呼んでるんだし」
「そういう問題じゃないだろ!?」

克哉としては、言い争うのは別に構わないが、
自分のことで口論するのはやめてほしいと思う。



「...。そうだ本多、さっき携帯がなる前。何話そうとしてたんだ?」
口論をやめさせようと、話題を転換する。
すると途端に本多は黙ってしまった。
「今度な」
「今度? なんでそうやってもったいぶるんだよ。今でいいじゃないか」
「私も聞きたい」
「御堂部長は関係ないんです」

「ふん。克哉。では“今度”らしいぞ。では仕方あるまい。帰るか?」
にやりと笑って克哉の腰に手を添える。
「...ぁ...」
克哉はうっとりした表情で御堂を見つめ、頷いた。

ビールジョッキ3杯ほど飲んだ克哉は、酔いのためなのか、頬が心なしか赤かった。
「克哉、酔ってるのに御堂になんか送ってもらったら危ないだろ」
「危なくなんかないよー」
「だけどよ!」
「本多君。まだ分からないのか? こういうことだ」
くいっと克哉を抱き寄せると額にキスをする。

「み!?」
突然のことで驚く克哉と、
真っ白になって呆然と立ち尽くす本多。

「こういうことだ、本多君。分かったか?」
「......ぅ...ぁ...本多、ごめん、オレ...実は御堂さんと付き合ってるんだ...。
 ドン退くよな...? ...ごめん」
シュンと項垂れる克哉に、本多はハッとして首を横に振る。
「そ、そそそそんなことねぇって。お、俺ら親友だもんな!!」
自分で自分を更に追い詰めた本多だった。





「はぁ...もっと早く告っとけば良かった...」
肩を落として帰路につく本多の脳裏に、克哉の笑顔が浮かぶ。


「ハッ!? そういえばヤケに最近克哉が色っぽいと思ったら!!!!!
 ていうか、付き合ってるってことは、そういうこともやってる、ってことだよな!!?
 だああああああッ!!!!!! 超マジ許せねえ!!!!
 御堂ぉぉぉぉッ!!!! 俺の克哉が!!!!
 アイツ一体どんなペテンを使ったんだよ!!! 畜生!!!」

一人夜空に向かって寂しく負け犬の遠吠えをするのだった。







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