「あ...えーっと」
本多と御堂がまた喧嘩を始めた。
「御堂さん、落ち着いて」
「私が悪いと言うのか?」
「いや、そうじゃなくて」
克哉が御堂の元で働き始めてからも、
プロトファイバーの販売は続いて、本多もちょくちょく此方を訪れる。
全く変わらない光景である。

「はぁ...。本多もいい加減にしないと」
「だってコイツが!!」
「小学生じゃないんだから」
落ち着いて、と本多の背中をポンポンと叩く。

「まったくよ〜、いっつも克哉は何でこの悪魔の味方につくかね」
「み、味方についてるわけじゃないだろ?」
動揺してしまった。

「それよりさ、克哉」
「ん?」
「首んとこについてるソレ、何」


ばっちーんッッ!!

ものすごい音がするほどに
克哉は焦って手でそれを押さえた。

「こ、これ!?
 えっとこれ、これね。
 昨日お風呂で擦りすぎちゃって」

昨晩は御堂に首輪を付けられたんだと思い出す。
かなり動いたし、首輪の痕がついてしまっていたのだ。
今朝は寝坊してしまってあまり鏡を見ることが出来なかった。

御堂も目を逸らしている。
「考え事してたから、な」
もっともらしいことを付け加えて、仕事の話に戻す。


克哉は、プリントを指差しかけて気付いた。
「(っ...!!)」

手錠を使ったその痣が残っていた。
さっと手を引っ込めた彼に、本多も怪訝そうな表情をする。
「どうしたんだ?」
「え、い、いや。今静電気が」
「いや、紙から静電気はこねえし」

どんどん自分がイタイ状況に追い込まれていく。

「小さい事は気にするなよ、本多」
「本当に君は器が小さいな。...身体とは反比例して」
「なんだと!?」
御堂が喧嘩を売ってくれたお陰で何とか気まずい状況を逃れる事ができた。
礼に値することではあるが、そもそも
こんな状況になったのは昨晩、御堂が首輪と手錠を持ち出したことが原因なのである。

すぐ消えそうな痣でもないし、
ファンデーションか何かで隠すしかないのだろうかと
目の前で喧嘩している二人を無視して考える克哉であった。


御堂の方はそれを本多に見せびらかすためにつけたようであるが、
そんなことに克哉が気付くのにはもう少し時間が掛かるようであった...。







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