「おい、華月!!」
「ちょ、待って、葉月!!」
「遅刻すんだろッ!!」
「ふぁぁっ、ごめん〜!! さぁさ、行こう!」
毎朝の登校風景である。
いつも仕度を済ませるのは葉月が先。
起きるのは華月のほうが早いのだが、
忘れ物はないかとか、そういったことを心配していると
いつもいつの間にか葉月に追い越されている。
「遅い、葉月!!」
柏木家の門の前で、祐李が待っている。
遅いというなら先に行けばいいのにと思う葉月。
「ごめん、祐」
しゅんと萎れる華月に、祐李は密かに胸キュン(※死語)しつつ、
まだそんな萎れた華月が見たいが為に、怒ったふりをする。祐李はキモイ(葉月談)。
題名にもあるように、今回は「葉月の憂鬱」をテーマにするわけで、
主に葉月の感情がナレーターに反映していく。
「そうだそうだ、葉月。昨日から祐が、『タチ』だの『ネコ』だの言うんだ。何それ」
葉月は吹いた。
「祐李!! てんめぇ華月に変な単語教えるんじゃねぇ!!」
「えぇ〜、葉月も知ってたの〜」
「お前が言ってたんだろうが!!
昔、『ねぇ、華月はタチなのネコなの?』って!!
俺は意味が分かんなかったからわざわざネットで調べたんだ」
「きゃー、キモイ!」
「お前に言われたくねー!!」
ことごとく、祐李はウザイと思う葉月。
そんな五月蝿い中に、姫が登場した。
「葉月さんも大変だね。」
その声の主は、今日も薔薇の花が良く似合う、谷野美裕だった。
「美裕さん!!」
勿論ながら、一番最初に食いついたのは華月。
「おう、おはよ。...毎日が戦いだっつーの」
「あはは、葉月さんが言うとシャレになんなーい」
「シャレのつもりではない」
「あ...」
二人の間を冷たい風が走った。
「美裕さん、来週のオケ部の公演、絶対見に来てくださいね!!」
「うん、行くよ。絶対。」
「えへへへ〜!! 僕のソロがあるんです〜!!」
「耳の穴かっぽじって行くわよ」
「(〃▽〃)」
そんな二人の会話を聞いていてコトゴトク不快に思っているのは勿論祐李。
真っ黒いオーラのブリザードである。
そんなオーラに気付いても気付かないふりをする美裕と、
全く気付かない華月、
気付きすぎて一人怯えている葉月。
親友、小田原が現れてくれることを、
心の底から願う。
しかしそういうときに限って、
現れて欲しい人というものは現れない。
結局お騒がせメンバーのみで、登校を完了してしまった。
「おはよう、朝っぱらから大変そうだな」
「そりゃもう」
朝、机に伏せて項垂れる葉月を見舞いに来た小田原。
「みなさーん、同じ顔のこっちはフリーですよ♪」
「やめろ、このッ!!」
「冗談です。」
葉月に首を絞められ、白旗を揚げる小田原。
「祐李とかさ、絶対女には困ってねぇはずなのにな」
「女に飽きたんだろ」
「あ〜...」
納得できてしまう自分が怖い。
「に、しても美裕があんなに男に優しいところも見た事ないな。基本的にあいつ男と話さないしな」
小田原の発言に気だるそうな頭をぬくっと起こして美裕を確認する。
「ああ、」
それに気付いた美裕がスタスタとやってきた。
「いい? 私が優しいのは華月さん限定」
「なんだよそれ」
「他の奴はどれも同じ人間にしか見えないのよ」
「じゃあ俺たちはどうなんだよ」
「滑稽すぎてむしろ人間に見えない」
しーん。
「うわっ」
華月の小さな悲鳴に葉月の耳がぴくりと反応する。
教室の隅で祐李が暖の頬にキスを迫っている。
ブチッ、と葉月の中の何かが切れた。
「祐李ッ!! てめぇぶっ殺す」
「挨拶なのに」
「嘘をつけ。いっぺん地獄行って躾けてもらえ」
「じゃあ。華月、僕を躾けてw」
「逝けッ!!」
悲しくもこんな葉月の忙しい毎日はとどまるところを知らない。
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