「美裕さぁぁぁんッ!!」

げし。
「ウザイ、華月」
華月の中の美裕センサーが反応して駆け寄ろうとしたところ、
祐李に足を出され、廊下でダイブ。

「ひ、酷い...」
「美裕のどこがいいのさ」

「え?
 綺麗だし、優しいし、人気者だし」
「あんな我侭...。大体あいつの周りにいんの大抵性格悪いんだよ...。
 似たものが集まるんだって」
「そういうの良くないよ!! 性格悪いとか」
「...華月も気をつけなね」

真剣な顔で言われて、何も反応できなくなる。

「僕はこれから部活だけど、華月はどうする?」
「...図書室で待ってる」
「ありがと」


楽譜を持って図書館に行く。
次の公演での自分のソロパートの楽譜だ。
雰囲気や注意したいところをマーカーとペンで書き込んでいく。

「ここはもっと軽めにって...」
軽くしすぎると音が飛ぶ癖があるからな、と慎重に書き込む。
横では葉月も黙々と書き込みを続けている。
先生の言う事をその場で書き込むと汚くなるので、
楽譜を二枚コピーして、一枚は即行用、二枚目はまとめ用としているのだ。

「あ、わり、俺トイレ」
「ん」

しん、とした図書室。


唐突に、呼ばれた。

こういう状況を華月はよく知っていた。
「...何か」
「ちょっと、手前が柏木華月だよな?」
「そうだよ」
静かに立ち上がると、
数人の男子に大人しくついていく。

「ちょ、華月?」
荷物を置きっぱなしにどこかに消えた華月を葉月は不審に思い、探した。


**

「お前な、美裕と何なわけ?」
「お前が現れてから美裕付き合い悪くなったんだよ!!」
校舎裏に呼び出すとは、古典的だとそんなことを考える余裕さえもつ華月は、
落ち着いた口調で『友人ですが何か』と応える。
しかしながら男子達はそれに更に腹を立てたのか、手があがった。

「その手には乗りません」
華月はその手首を掴んだ。

「...かづ...」
華月を追ってきた葉月は、
その光景を見て愕然とした。

完全に男子8人を圧倒し、彼らを組み敷いている華月がいた。

「暴力では何事も解決しないよ」


男子を散らせると、パンパンと手を叩いて土ぼこりを落とした。
「流石美裕さんだなぁ。ふぁんくらぶって奴なのかな」
「おいっ、華月!!」
「...っ、葉月!? み、見てたの?」
「お前...なんで」

いつも弱いふりをしていた。
強くなんてありたくなかったから。

「えへへ、僕かっこよかった?」
双子の間にできた溝は、
きっとどうしても埋まらないもので

華月は頑張って笑ってみせた。


深い溝は、きっと世界の果て。
華月は、自分が人間ではない事を理解していた。






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