なんとかカヅキによって家まで送ってもらった華月は、
大人しくベッドの中で寝ていた。
「頭痛いな...」
先ほどからこめかみ辺りを襲う激しい頭痛に魘されていた。
ベッドの横に胡坐を掻いているカヅキは、そんな華月を心配そうに眺めていた。
「大丈夫か?」
「うん、なんとか」
アレだけの出血をしているのにも関わらず、貧血で済んでいることが奇跡に等しい。
枕に顔を埋めた彼は、しばらくそのまま眠りに落ちた。


カヅキに起こされ起きると、カヅキが携帯電話を持っていた。
「おい、由里奈だぞ」
「んっ...、うん...、ありがと...」
枕に埋もれながら通話ボタンを押す。
「もひ、もし...、ゆ、由里奈さん」
電話の内容は今から会わないかということであった。
華月はそれに断れるはずもなく、すぐに着替えて駅に向かった。

「ゆ、由里奈さん」
駅前で自らに手を振る母親。
母親由里奈と文化的タブーの関係を続けている華月。
それでも、母親を傷つけてしまった過去から、
由里奈の要求には断ることが出来ないでいる。

「ごめんね、学校大丈夫だった?」
「今日は早退してきたんです」
「早退? 具合悪かったの? 言ってくれれば良かったのに...。
 大丈夫? 熱とかあるの!?」
「ちょっと貧血なだけだから、大丈夫です」
笑ってみせる華月に、由里奈は安堵したのか、二人手を繋いで街を歩き出した。



本当は、

もし運命が正常に動いていたら、

もしこんなに運命が歪んでいなければ

十七年間、ずっとこうして母親の横を歩いていられたのに。

お母さんって呼んで、

あなたの息子でいられたことに誇りを持っていられたのに。


「華月」
「はい?」
「歩くの辛いよね、うちおいで」
行きたくなかった。
家に行ってすることなど決まっている。
でも、断ることが出来ない。

「はい」
笑って、静かに頷いた。




「ただいま」
家に帰るとバタバタと葉月が走ってきた。
「てんめーッ!! どこ行ってたんだ!! 家で寝てねえで!!」
「病院に行ってたんだよ」
「...、そ、そうか。で、なんだって」
「胃潰瘍だって」
適当な病名を言って、部屋に篭る。
「夕食は食えるか?」
「胃に穴が開いてるって言うからちょっとあんまり食べれないな」
適当にこじつけてドアに鍵を閉める。
「はぁ...」
首筋に付けられたキスマークを、鏡で確認する。
「見えない、よ、な...?」
制服を着てみて、見えるか見えないかを確認する。
「絆創膏とかつけたら逆に怪しまれるかな...?」
コンビニで買っておいたおにぎりとサラダを口にする。
「あれだけの出血しといたのにもう食べれるとか言えるわけないもんな」
1人ベッドに腰掛けて、
深く溜息をつく。

これは一体何度目の、嘘なんだろうか。







/
戻る