彼女が居た。
誰にも言っていなかった。葉月にも。

華月にはソレが必要だった。


心を傷つけないために、身体を傷つける。


一生消えない、一生忘れないような事を、
後悔する結果で染めてしまえ。

リストカットもいずれは消えてしまうけれど、
その傷は絶対に癒えないから。

癒えない傷が欲しかった。


**


「華月?」
「あ、あぁ、祐李」
「どうしたの? ぼーっとして」

「いや、何も?」
「悩みあるなら僕に相談してよ、何でも。下の悩みも一気に解決!!」
教室もこんな祐李に既に慣れたのだろう。
大声でそんなことを言っても全く動じない。

「あ、うん。ありがとう」
その寂しげな笑顔は、
そんな祐李の胸を締め付けた。


**


『華月...、大丈夫か?』
「うん、大丈夫だよ」

カヅキが華月を慰める。
全ての原因はこの身体にあった。
自分が人間ではなく、もっと他の、異質なものであると知っていたから。

悪魔を体内に取り込み、同一化することができること。
霊感が強く、見えてはいけないものまで見えること。
治癒能力が人の数十倍あるということ。

双子の弟とは似ても似つかない存在だということが、
華月には苦しくて仕方がなかった。

このことは誰にも言っていない。
言うのが怖かった。

きっと誰も信じてくれないだろうし、
たとえ信じてくれたとしても、そのときはきっと、決別の時。
決別したのには前例がある。

華月が人間ではないと知った母親は、自殺している。


「大丈夫だから」
大丈夫
そう呟いてはいるものの
平気じゃない時
いつか来るはず









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